大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1515号 判決 1967年12月06日
主文
被告は原告両名に対し、各金四〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年五月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告等のその余の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は三分し、その一を原告等の、その余を被告の負担とする。
この判決は、原告等において各金一三〇、〇〇〇円の担保を供するときは、その勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
一、当事者双方の申立。
原告等訴訟代理人は「被告は原告両名に対し、各金六〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年五月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求めた。
被告訴訟代理人は「原告等の請求はいずれも棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
二、原告等の請求原因。
(一)、原告等は宅地建物取引仲介業者である。
(二)、原告等は昭和三九年八月二四日被告から被告の所有する尼崎市〓口四丁目二一番地の一田九畝一〇歩、同町二丁目八番地の二田四畝一、三歩(以下本件土地という)の売却の斡旋を依頼され、被告と訴外名大商事株式会社(以下訴外会社という)間に売買を斡旋した結果、同日被告と訴外会社間に代金二四、六六〇、〇〇〇円でその売買契約が成立し、被告は同日訴外会社から手附金四、〇〇〇、〇〇〇円の交付を受けた。
(三)、ところが訴外会社は約束の期日までに残代金を支払うことができなかつたので、手附を放棄して売買契約を解除した。よつて右手附金四、〇〇〇、〇〇〇円は被告の取得するところとなつた。
(四)、原告等は被告から本件土地の売却斡旋の依頼を受けた際、被告の代理人訴外藤尾ヲシズと訴外会社が手附を放棄して売買契約を解除した場合にも前記手附金の一〇分の三に当る金一、二〇〇、〇〇〇円を原告等に売却斡旋の報酬として支払う約束をなした(甲第一号証)。
(五)、よつて原告等は被告に対し、報酬金各六〇〇、〇〇〇円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四〇年五月九日から完済まで年五分の割合による金員の支払を求める。
三、被告の答弁。
(一)、請求原因第(一)項の事実は認める。
同第(二)項の事実中、被告が原告等に本件土地の売却斡旋を依頼したことは否認する、その余の事実は認める。
被告等に斡旋を依頼したのは買主の訴外会社である。
同第(三)項の事実は認める。
同第(四)項の事実は否認する。
(二)、宅地建物取引仲介業者は代金の授受と登記手続が完了したときに初めて報酬を請求できるのであつて、本件のように売買契約が解除された場合には報酬は請求できない。
(三)、甲第一号証の契約書中第一三条の報酬に関する部分は不動文字で印刷されており、被告はこれに従う意思はなかつたから、右売買契約書とは別個に報酬契約のなされていない本件においては、被告は報酬を支払う義務がない。
(四)、原告等の請求する報酬額は宅地建物取引業法第一七条に基づく兵庫県告示所定の報酬限度額を上回るから、その報酬を定める契約は同法に違反し無効である。
(五)、仮りに被告が原告等に報酬を支払わなければならないとしても、原告等のほかに訴外三栄興産株式会社の社員武知徳市も本件土地の売買の仲介に関与し、甲第一号証の契約書に仲介人として署名押印しているから、原告等は同人を加えて三名で右一、二〇〇、〇〇〇円を三等分した額しか請求できない。
四、証拠関係。(省略)
理由
一、原告らが宅地建物取引仲介業者であること、被告と訴外名大商事株式会社との間に昭和三九年八月二四日代金二四、六六〇、〇〇〇円で本件土地の売買契約が成立し、当日被告が訴外会社から手附金四、〇〇〇、〇〇〇円の交付を受けたこと、その後訴外会社が手附を放棄して売買契約を解除したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、証人武知徳市の証言、原告岸田種一本人の尋問の結果(第二回)によれば、原告等は被告から本件土地の売却斡旋を依頼され、訴外武知徳市は訴外会社から本件土地の買入斡旋を依頼されていたので、原告等が訴外武知徳市と斡旋した結果、被告と訴外会社間に前記売買契約が成立し、契約書(甲第一号証)が作成されたことを認めることができる。
されば、本件において後記認定のような報酬契約が原告等と被告間にあつたと認められるので、それに基き右斡旋行為に対する報酬を請求できるのであるが、仮りに右報酬契約がないとしても、仲立人は商法第五一二条第五五〇条により同法第五四六条所定の手続すなわち売買契約の成立、契約書の作成が終了したときにはその段階で相当の報酬を請求できるのであつて、これに反する被告の見解は到底採用できない。
二、次に前記甲第一号証、原告岸本種一本人の尋問の結果(第一回)によれば、原告等と被告の代理人訴外藤尾ヲシズとの間に、原告等は訴外武知徳市とともに訴外会社が手附を放棄して売買契約を解除した場合でも右手附金の一〇分の三に当る一、二〇〇、〇〇〇円の各三分の一すなわち四〇〇、〇〇〇円を原告等各自の斡旋行為に対する報酬として支払を受ける旨の契約があつたことを認めることができる。
被告は原告等の請求する報酬額は宅地建物取引業法第一七条に基づく兵庫県告示所定の報酬限度額を上回わると主張するが、右告示によれば取引額が二、〇〇〇、〇〇〇円以下の場合は一〇〇分の五、二、〇〇〇、〇〇〇円を超え五、〇〇〇、〇〇〇円以下の部分は一〇〇分の四、五、〇〇〇、〇〇〇円を超える部分は一〇〇分の三の範囲内でその報酬額をきめることと定められているところ、右割合によつて計算すれば、売買価格が二四、六六〇、〇〇〇円の場合は報酬額の最高限度は八〇九、八〇〇円となるから、これを下回る前記認定の四〇〇、〇〇〇円の報酬額については被告もこれを支払う義務があるといわなければならない。
三、しからば被告は原告等に対し報酬金として各金四〇〇、〇〇〇円及びこれに対する記録上訴状送達の翌日であることの明らかな昭和四〇年五月九日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告等の本訴請求は右認定の限度でこれを認容し、その余の部分は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。